演出:天野マリ×脚本:Chani 鼎談 前篇

   

演出の天野マリさんと脚本のChaniさんに、今回の舞台『CLOCK ZERO ~終焉の一秒~ WatchOver』について、お話して頂きました。
舞台本編の内容や結末に触れておりますので、舞台をご覧になった方用の鼎談となっております。
キャラクターや解釈については「舞台版は」ということでお読みください。

中篇
後篇

<CLOCK ZEROの中心 撫子の存在とは?>


――『CLOCK ZERO』における撫子の存在はどのように捉えていらっしゃいますか?

天野
撫子という存在って菩薩のようだなって思います。
母性の塊で本当に傷ついている、痛い思いを抱えてるキャラクターたちに母親というよりも、寧ろ、菩薩のような心で心を開いていって、痛みを取り除くことは出来ないんだけど、少しずつ、彼らの閉じてしまった心を開いていく存在ですよね。
本来、女性ってそういうのを持っていて、撫子がそういう存在で、今回反逆者の痛いほどの傷を撫子が少しずつ癒していく、最初は心を開けないんだけど、なんとなく撫子には開いていって信じていいのかなってところまでは今回描けるのかなって、信じていいんだよって。
反対に、観ている人にも信じていいんだよって思って欲しいです。
時間は掛かると思うけど、少しでも安心しているよって、その間だけでも感じてもらえたら良いのかなって。
でも、そういう撫子を有彩があの若さでよく演じられるなって毎回感心しています。

<ビショップENDは「浄化」>

――脚本を書かれるときのChaniさんの原動力はなんですか?

Chani
ストレートに言うと、お客様に喜んで頂きたい、好きな方に喜んで頂きたいという思いです。

――好きな方というと、作品全体ですか?ENDのメインキャラですか?

Chani
メインキャラですが、もちろんそれ以外のキャラクターを好きな方もいらっしゃいますし、まずは「キャラが存在している」という喜びを感じて頂きたいなって思います。私の原動力は本当にこれだけです。

――今回のビショップENDのストーリーを一言でいうと?

Chani
浄化。
ビショップENDは、誰にも癒せない大きな傷を抱えた人物が、ずっと抱えてきた大きな塊が、主人公と出会うことによって浄化されていく物語だと思います。

――ビショップENDにおいてのキングの存在は?

Chani
キングは常にキーパーソンだと思っていました。彼がいるからこそ全てが起こってしまったというのがあって、常にどのルートであったとしても、どの物語だったとしても、彼が全ての始まりであるということは忘れたくない。

<キングの存在>

――反逆者ENDで海棠鷹斗本人がいなくなったことで、パラドックスじゃないですけど、根本的な話が無くなるじゃないですか。

Chani
物語を生んでくれたというか、そういう人がいるから、人間が傷ついたり、喜んだりと、無ではなくなる。

――キングが作った物語ということですね。

Chani
そうだと思います。キングがいたからこそ、色々傷つくこともあるし、心が揺れる出来事が起きる。
私が書く人間だからかもしれませんが、例えそれが「悪」だとしても、そういう物語を生む根源となる人がいることはありがたいです。

――今回キングENDが無いので、初めてご覧になる方にはキングの強い想いを知ることなく物語が進んでしまうので、演出は難しいかと思いますが?

天野
新曲『未来』で、撫子に対するキングの想いを歌っているので、それでちゃんと伝わるかと思います。
ビショップが撫子に嫉妬する描写があるので、撫子がキングに拘ってくれて、そして、ビショップが「ダメです、やっぱり帰しません」と、初めてちゃんと自分のワガママを言えたところが、先ほどChaniさんが言われた「浄化」ということだなって思いました。そして、最後に央が二人を見守るというところでその「浄化」というところがとてもよくわかります。
私は最後のシーンが一番好きで、3人で夕日を見るところです。
ビショップENDが好きな人も央との関係が前回描かれたところを彷彿とさせ良かったな、やっと兄妹一緒になれたって、撫子との関係を央も優しく見守っている。それはちゃんと央が望んだようになっている。
だから、ある意味ビショップにとっては浄化でハッピーエンドなんだけど、そこにキングの存在がちゃんとある事は狙い通りだと思うし、そこを汲み取って、演出をさせて頂こうと思います。

<反逆者ENDは、痛みの中の安らぎ>

――一方、反逆者ENDは一言でいうと?

Chani
「痛みの中の安らぎ」です。

――以前、島ディレクターとお話したときに「CZでは寅が一番常識人で、全員に突っ込むキャラ」というようなことを仰っていました。このように、寅之助は誰よりも常識人でありながら、一番破壊行動を備えているキャラなので描くには凄い難しかったと思いますが?

Chani
そこまで難しくはなかったです。ただ「自分の傷に気付いてない」ところを切なく感じながら書きました。

――傷の痛みどころか、痛みがあること、痛みの根源かというのもわかっていないというところですよね。

Chni
自分がどういう状態であるのかわかっていない。多分、なんとなくはわかっているんだろうけど、腑に落ちていないというか、それを撫子と出会うことで気づく、自分の痛みに気付いたからこそ、最後の行動に出たんだと思います。

――自分がもう存在しなくなるということもわかった上でですもんね。

Chani
だから、カーテンコールの反逆者のあの言葉に繋がります。

――これまではENDのメインキャラと撫子の二人でカーテンコールのサビは歌っていますが、「反逆者END」でキングと撫子に歌ってもらって、最後に反逆者のあの一言。

天野
大島くんの演技は、初めすごくイライラしちゃってて、どういう風に表現したらいいのかすごく悩んでいたのよね。Chaniさんからも、イライラしたものを全部吐き出せないから切なのではなく、ぐっと抑えるからこそ大人という気持ちもあるんだよ、と言ったのよね。

Chani
観客イコール撫子と思っているので、観ながら、「わっ切ない」「あんなに傷ついているのに気づいていない」「抑えていることにすら気づいていない」というところにもどかしさを感じてもらえたらと思います。また、撫子はそれに気付いているから受け入れられたんだと思います。

<萌えとエロとキュン>

――自分がなぜ傷ついているのか、なんでイライラするのかっていうところをちゃんと撫子が受け入れたことから、命を投げ捨ててもあの様な行動をとれたということ。
でも、その直前の抑えた心のラブシーンが萌えキュンなんでしょうか?

天野
相当エロッ気ありますね。
なぜエロって思うかと、不器用ゆえに強引なところがエロ気に繋がる、どうしていいかわからないから、乱暴に扱っちゃって、撫子がちょっと怯えちゃったり。
狙いじゃなく、不器用ゆえにそういうところがキュンキュン来るのかなって。

――「キスよりも濃厚なラブシーン」や「色気」が脚本や舞台上のキャストの仕草に表れているのですが、反逆者だから?

天野
愛情表現って、巧みにやられると女子としてちょっと引くけど、不器用ゆえに乱暴されちゃうのはちょっとキュンと来るんですよね。
変な強引さじゃなくて、真っ直ぐで、それは撫子も最初は戸惑ったと思うんだけど、あえてツンツンしてるんじゃなくて、ビショップは究極のツンデレだと思うんですよ、自分がツンツンしようとしている訳じゃないんだけど、なかなか距離が縮まらなくて、誤解されるようなことをたくさんしちゃうんだけど、やっぱり撫子には自分の内面をちゃんと理解してくれるから、段々と距離が縮まっていく。
じわじわとじゃなくて、いきなり縮まっていくような変な強引さにはキュンとしますね。

――これまでのENDだと、反逆者は部分部分でしか描かれませんでしたが、今までこうしたかったのにという要素は脚本に入れられましたか?

Chani
うん、入れられました。

天野
キャストみんなに聞いたら、エロイっすよって言ってますよ(笑)

――さっきおっしゃってた「不器用な愛情表現」がエロく出ちゃうのか……。

天野
愛情表現の仕方がわからないからでしょうね。

<中篇に続く>

 - 情報屋の突撃!レポート